私は「日本語を学ぶ人をどうサポートするか」を中心テーマに、複数の研究プロジェクトを進めています。特に、外国にルーツを持つ人々——医療の現場で働く外国人看護師・医師や、日本で育った外国ルーツの子どもたち——が直面する言語的な課題に着目しています。


進行中のプロジェクト

看護留学生のための語彙・教材開発研究

期間:2024年4月〜2028年3月 資金:日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C)

どんな研究?

外国から日本に来て看護師を目指す留学生は、看護師国家試験に合格するために膨大な専門用語を日本語で習得しなければなりません。この研究では、看護の教科書や国家試験問題をコンピュータで分析し、「どんな言葉を・どのような順番で・どうやって覚えれば効率的か」を科学的に明らかにします。その成果をもとに、実際に役立つ語彙学習教材を開発します。

社会への貢献 外国人看護師が増えることで、多言語対応できる医療現場の実現に貢献します。また、開発した教材は日本語学校や看護学校で活用されることが期待されます。


外国にルーツを持つ子どもたちの言語使用に関する研究

期間:2022年4月〜2026年3月 資金:日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B)

どんな研究?

「CLD生徒」とは、文化的・言語的多様性(Cultural and Linguistic Diversity)を背景に持つ子どもたちのことです。たとえば、家では外国語を話しているが学校では日本語で学ぶ、あるいは日本生まれでも両親が外国出身、といった子どもたちです。

この研究では、そうした子どもたちが作文でどのような言葉を使うか、また話し言葉とどう違うかを大規模なデータから分析します。子どもたちの言語使用の実態を明らかにし、適切な教育支援のあり方を考えます。

社会への貢献 外国にルーツを持つ子どもたちが適切な教育支援を受けられるよう、アセスメント(学力評価)の方法改善に貢献します。


女子大学における外国ルーツ学生の経験に関する研究

期間:2024年4月〜2026年3月 資金:金城学院大学 特別研究助成費

どんな研究?

金城学院大学のような女子大学に進学した外国ルーツの学生が、大学での学びや生活でどのような経験をしているかをインタビューなどを通じて調べます。日本語の困難だけでなく、アイデンティティや友人関係、将来への不安なども含め、学生のリアルな声を丁寧に聞き取ります。

社会への貢献 多様な背景を持つ学生が活躍できる大学環境のあり方を提案します。


最近の研究関心

正式な研究プロジェクトとしてまだ動き始めたばかり、あるいは探索的に取り組んでいるテーマを紹介します。

生成AI・LLMを活用した語彙学習ツールの開発

2025年ごろから、大規模言語モデル(LLM)を語彙教育に活用する研究に取り組み始めました。具体的には、看護師国家試験の問題文をもとに生成AIで「読みやすい解説」や「多読教材」を自動的に作成する試みです。また、語彙リストをもとにした個人向け語彙学習ウェブサイトを短時間で構築する方法の実践も進めています。

AI技術は急速に発展していますが、「日本語教育にどう使えるか・どう使うべきか」を現場の視点から検証することが重要だと考えています。

専門分野をまたいだ国家試験コーパスの比較研究

これまで看護師国家試験を中心に語彙分析を行ってきましたが、近年は美容師国家試験など他の専門分野の国家試験にも対象を広げています。「どの分野でも共通して出てくる語彙はどれか」「分野に特有の語彙はどう学ぶべきか」という問いを通じて、留学生支援に使える汎用的な語彙指導の枠組みを作ることを目指しています。

言語・談話と社会——批判的な視点から

コーパス分析や語彙研究という軸に加え、言語が社会においてどのような役割を果たしているかを批判的に問う研究にも関心を持ち始めています。SNS上でのマイノリティによる告発とその反応の分析、政党の政策文書の語彙比較など、「誰がどんな言葉で何を語るのか」を丁寧に読み解く研究です。「やさしい日本語」の推進が、社会的な包摂にどうつながるかという問いもその延長にあります。


完了したプロジェクト

看護師を目指す留学生のためのライティング教材開発

期間:2019年4月〜2022年3月 資金:日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C)

概要 看護の実習で書かなければならない「実習記録」(患者の状態や観察を記録する文書)は、独特の書き方のルールがあります。この研究では、実際の実習記録をコンピュータで分析し、「よい記録」と「課題のある記録」の違いを明らかにした上で、留学生が実習記録を書く力を養うための教材を開発しました。


看護現場が求める日本語能力のニーズ調査

期間:2022年4月〜2024年3月 資金:金城学院大学 父母会特別研究助成費

概要 「病院の現場では、外国人看護師にどんな日本語力が必要か」を、看護師・看護教員へのアンケート・インタビューで調べました。この結果は、より現場に即した教材開発に活かされています。


外国人医師・医療職向け医学語彙教材開発

期間:2018年4月〜2022年3月 資金:日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B)(分担)

概要 日本で医師を目指す外国人や、すでに働く外国人医療職が、医学用語を効果的に学べるウェブ教材を開発するプロジェクトに参加しました。このプロジェクトの成果として開発された「外国人のためのわかりやすい医学用語」は、2024年に専門日本語教育学会論文賞を受賞しました。


研究アプローチについて

私の研究の特徴は、コーパス言語学の手法を用いることです。コーパスとは、大量のテキストデータをコンピュータで分析できるようにまとめたものです。

たとえば、看護師国家試験の問題をすべてデータ化して「どんな単語が多く出るか」「どんな言葉の組み合わせが特徴的か」を統計的に分析します。勘や経験だけに頼らず、データに基づいて「本当に必要な日本語」を特定することで、より効果的な教材・教育支援を実現しようとしています。